国力、国益を考えない連中が「安倍的なもの」を生み出し、日本をビッグモーター化させている【池田清彦×適菜収】
【隔週連載】だから何度も言ったのに 第45回 :『安倍晋三の正体』をめぐって(対談前編)【池田清彦×適菜収】
適菜収著 『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)がベストセラー街道を爆進中だ。今回、日本の社会評論についても鋭い論考を重ねる生物学者にして評論家の池田清彦氏との白熱した対談を全2回にわたってお届けする。安倍政権とは何だったのか? 全体主義が覆いはじめた日本の大衆の心とは? 国力、国益を考えない連中が日本をビッグモーター化し破滅に導いている・・・「だから何度も言ったのに」連載第45回。
■ニッポンを蝕む全体主義
池田:今回適菜さんは『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)を上梓されたけど、大変面白かったですよ。適菜さんはその前に『ニッポンを蝕む全体主義』という新書も書かれていたけど、今回は安倍だけに焦点をあてたみたいだね。基本構造としては「ニッポンを蝕む全体主義」と安倍が体現しているものは重なっている。僕が安倍はおかしいなと思ったのは、第1次政権の総理を辞めるとき。「この人はかなり幼児的だな」と思ったね。政治家にはとても向いていない。小学生が駄々をこねているような感じで、なぜこんな人が首相をやっていたのかと疑問に思った。谷垣禎一さんのほうがはるかにマシだったけど、なぜか首相になれなかった。谷垣はリベラルっぽいところがあったから、安倍を支えてきた連中は、安倍のほうが操りやすかったのかもしれないね。
適菜:先生がおっしゃるように、全体主義と「安倍的なもの」は重なる部分が大きいです。もちろん、歴史的な背景により全体主義の現れ方は異なりますが、共通するのは大衆社会において発生することです。前近代における専制の一方的な権力の行使とは異なり、騙される大衆がいないかぎり、全体主義は発生しない。安倍政権の特徴は、国民に対する丁寧な説明を行わず、社会に一定数存在する「騙されやすい人間」を嘘やデマを最大限に利用することで動員し、権力基盤を強化していったという構造があると思うんです。
池田:そうだね。大衆がいなければ全体主義は発生しない。ナチスドイツのヒトラーを熱狂的に支持したのは大衆です。ヒトラーの頃は反対する奴を全部追放したりした。時代が進んだから日本では支配の構造がマイルドになってきたよね。だからかえって続いたという面はあると思うんですよ。
適菜:アレクシ・ド・トクヴィルが『アメリカのデモクラシー』で、「穏やかな専制」という言葉を使っていますね。ここは今回の対談のテーマと深くかかわる部分だと思います。今の時代に「専制」のようなものが打ち立てられるとしたら、それは別の性質を持つものだろうと。それはより穏やかで、人々を苦しめることなく堕落させるだろうと。まさに今の状況ですね。トクヴィルはこういうことも言っています。
《誰もが自分にひきこもり、他のすべての人々の運命にほとんど関わりをもたない。彼にとっては子供たちと特別の友人だけが人類のすべてである。残りの同胞市民はというと、彼はたしかにその側にいるが、彼らを見ることはない。人々と接触しても、その存在を感じない。自分自身の中だけ、自分のためにのみ存在し、家族はまだあるとしても、祖国はもうないといってよい》
国家や公共というものを前提としない人間をテクノロジーにより動員する。まさにそれが安倍政権だったと思います。安倍は銃撃され物理的には消滅しましたが、「安倍的なもの」は依然として今の日本社会を深く蝕んでいます。逆に言えば、戦後日本の病を放置してきたツケが回ってきて、腐ったものが押さえきれなくなり、安倍政権という形で一気に表出した。それで、国や社会がとんでもないことになってしまった。だから先生がおっしゃるように、安倍を批判するだけでは十分ではなく、なぜあのような人物を日本社会は生み出してしまったのかという構造の問題として捉えないと間違えます。